「友引の葬儀は縁起が悪い」。この言葉は、多くの日本人にとって、半ば常識として受け入れられています。しかし、その根拠が仏教とは無関係の迷信であるにもかかわらず、なぜ全国の多くの火葬場が、今なお友引を休業日としているのでしょうか。そこには、単なる慣習という言葉だけでは片付けられない、日本の社会構造や、葬儀業界の事情が複雑に絡み合っています。最大の理由は、やはり「社会的な需要がない」という点に尽きます。たとえ迷信であっても、長年にわたって「友引の葬儀は避けるべきもの」という意識が社会に浸透してしまった結果、ご遺族や参列者の側が、友引の葬儀を心理的に避ける傾向が定着しました。葬儀を執り行う側も、わざわざ縁起が悪いとされる日に儀式を提案することはありません。その結果、友引の日には、葬儀の施行件数が極端に少なくなる、という現象が起きます。火葬場は、その運営に多くの人員と莫大なエネルギーコストを要する施設です。需要がほとんど見込めない日に、わざわざ火葬炉を稼働させ、職員を配置するのは、経営的に非常に非効率です。それならば、その日を職員の休日とし、他の曜日に稼働を集中させた方が、はるかに合理的である。このような経営判断から、多くの公営・民営の火葬場が、友引を休業日として設定しているのです。つまり、迷信が需要を生み、その需要のなさが、供給側である火葬場の運営スケジュールを決定している、という構図です。このサイクルは、非常に強固なもので、一部の火葬場が友引に営業したとしても、葬儀自体の件数が少なければ、状況は変わりません。また、火葬場で働く職員の労働環境を確保するという側面もあります。年中無休で稼働するのではなく、友引という定期的な休日があることで、職員は計画的に休息を取ることができます。近年では、火葬場の混雑緩和のために、友引でも営業する火葬場が少しずつ増えてきてはいます。しかし、社会全体の意識が大きく変わらない限り、友引が葬儀スケジュールにおける「特別な曜日」であり続ける状況は、今後も続いていくことでしょう。
なぜ友引の火葬場は休みなのか